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ゆうゆう自適。

つらつら、まったり。つれづれ(不定期)雑記帳。海風薫るロストックから伯林、そして再び東京へ。再びドイツへ「帰る」日を夢見て、今日も今日とてしゅぎょう中。
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ひさしぶりにベルリーナ・アンサンブルに行ってきました。
本日の演目はトーマス・ベルンハルト作の「イマヌエル・カント」。


「カントはケーニヒスベルクを出たことがない」はうそだった――


時は20世紀。哲学者イマヌエル・カントは、妻と弟、そしてペットのオウム・フリードリヒを伴って、海上のひととなっていた。
目的地はアメリカ、ニューヨーク。このたびカントは、コロンビア大学から名誉博士号を与えられることになったのである。

アメリカには最高の医師がいる。
コロンビア大学には、最高の眼科医がいる。
緑内障を患っているカントは、ケーニヒスベルクを旅立った。

アメリカに理性を広めるのと引き換えに、
視力を取り戻すために。


Wo Kant ist
ist Königsberg
Königsberg ist
wo Kant ist

カントがいるところに
ケーニヒスベルクあり
ケーニヒスベルクは
カントのいるところにあり


戯曲がまるごとベルンハルト。
舞台がオーストリア出ない分だけやや大人しめだけれど、相変わらず挑発的な内容です。

この20世紀の哲学者イマヌエル・カントがものすごく威圧的な人物で、弟エルンスト・ルートヴィヒを召使いのようにこき使っている。
船に乗り合わせているのは、とある大富豪の婦人。タイタニック号に乗っていた伯母の遺品(金銀財宝)を取り戻すために、タイタニック号引き上げに情熱をかけている。有名人が大好きで、くるくるとうわべだけの会話を繰り返す。そんな彼女を、カントは

Millionärrin

と呼ぶ。
Millionärin(大富豪)とMillio-Närrin(大ばかもの)をかけている。
……最初にテクストを読んだときは「誤植?」と思ったけれど、最低2回はこの表記で登場しているので、誤植ではない。

カントの威圧的な振る舞いを全員が流す、という運びなのですが、この作品のオチは「ラスト、ニューヨークでカントを待ちかまえているのはコロンビア大学のスタッフではなく、精神科医」であること。
周囲から注目されているようでいて、実際には誰よりも孤独であったベルンハルトの20世紀イマヌエル・カント。ベルンハルトのテクストは(といっても戯曲をいくつか、短編をいくつかしか読んだことがないけれど)とても挑発的なようでいて、人間の描写がとて緻密だなあと思うのです。あとすごく読みやすい。テンポがいい。執拗なまでの繰り返しが徐々にくせになってくる。


さて、肝心のベルリーナ・アンサンブルの演出ですが、結構テクストが削られていて、だいぶ小ざっぱりとした感じになったなあ……という印象。上演時間の都合もあるんだとは思うけれど、ミソジニー的発言や特定の国を蔑視する発言が重点的にカットされているのを見ると、ポリティカル・コレクトネスが発動したのではないかという気さえしてくる。

どういう判断なのかわからないけれど、

Ich vertrage keinen Kümmel
in der Kümmelsuppe

とか、いかにもベルンハルト!という感じの偏屈なセリフもことごとく消えているのが残念。
「キャラウェイ・スープに入っているキャラウェイがダメなんだ」、これはぜひ聞きたかった。たとえるならば「味噌入り味噌汁はからだが受けつけない」と言っているようなものです。秀逸。

全体的には、「喜劇」としてきれいにまとまっていたと思う。
つまり、ベルンハルトの作品としてはやや控えめなトーン。
これは観客を配慮してのことなのか……。

プレイテキストを読んでいなかった友達も「話はよくわかった」と言っていたので、とてもわかりやすい仕上がりになっているのはたしか。
比べたってどうしようもないけれど、最初にこの作品を演出したクラウス・パイマン(ベルンハルトの作品をいくつも手がけた演出家で、現在はベルリーナ・アンサンブルの総監督を務めている)のバージョンを観てみたいなあ。

クラウス・パイマンといえば、もうすぐベルンハルトの作品Einfach kompliziert『単純に難解』が上演されるらしい。かの『英雄広場』を演出したパイマン……せっかくだから、観たい!



そういえば、先日Stabiですれ違った「先輩かもしれないひと」は当人であることが判明しました。
ベルリン、すごいな……同業者である以上、行き先がある程度限られてくるとはいえ、それでもすごい。

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ドイツ生まれ、ドイツ育ちの「なんとなく日本人」。根っからのラインラントっこ。

日本の大学院で現代ドイツ文学を勉強中。ただいま、ドイツにて「しゅっちょう」修行の旅の途中。今やすっかりメクレンブルクの空と大地と海に心を奪われています。
夢は、日本とドイツをつなぐ「ことばや」さんになること。

深刻になりすぎず、でも真剣に。
こつこつ、しっかり、マイペース。がんばりすぎない程度にがんばります。

2010年4月-9月までロストック(メクレンブルク・フォアポンメルン州)、10月-2011年3月までベルリンに滞在。再度ドイツに留学することが、今後の目標のひとつ。

ぽつぽつと、不定期的に過去の日記を埋めていきます。


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