ゆうゆう自適。
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クリスタ・ヴォルフ著(1989)。邦題『夏の日の出来事』。
メクレンブルクの片田舎に越してきた家族と、その村の住人(隣人や友人たち)がともに過ごした夏を描いた作品。
先に読んだ『Störfall. Nachrichten eines Tages.』にも結構な時間を費やしたけれど、この『Sommerstück』を読むのはそれ以上に時間がかかった。モチベーションがまったく上がらなかった。
語り手の視点がはっきりしない、登場人物が無駄に多すぎて把握できない、話の筋にメリハリがない、なにを言いたいのかがよくわからない……。(そのくせ理性だけは要求してくる)
不完全燃焼。
語り手は一応「全知の語り手」。"ich"(わたし)や"wir"(わたしたち)を使うことによって、作中人物との「一体感」を示す。
でも実際は「全知なんだけれどもったいぶって話さない」ことが多くて、伏線を張るだけ張って、回収しないままに幕が下りたみたい。オープン・エンドというより「書きっぱなし」という印象。
絵に描いたような、平和な夏の日の日常の中に垣間見える「ゆらぎ」。
あ、面白いかも、と思った瞬間に打ち切られて、次のエピソードが挿入される。その繰り返し。
「理想郷なんてものは存在しない」
作品のメッセージは、こんなところなのかなあと思うけれど。
単純にメクレンブルク=DDR、という図式で捉えると、ちょっとがっかり。
その後に発表したのが件の『残るものはなにか』であることを考えると、そう外れていはしないんじゃないかって気もする。
あまりにも『カッサンドラ』から離れすぎたので、そろそろ帰ろうかと思います。ひとまずは。
初稿の完成は1982年、ところどころ『どこにも居場所はない』(1979)と並行して執筆。
「書きあげる」のに10年もかかったこの作品。
発表をためらったのか、それとも単に「書けなかった」のか。
どっちもなんじゃないかな、と思う。
時代が発表をためらわせた。
時代が書けなくさせた。
「今」が、書けなくなった。
『どこにも居場所はない』も『カッサンドラ』も、「今」を描いた作品ではない。
『チェルノブイリ原発事故』は長編小説ではない。
『幼年期の構図』(1976)以降のヴォルフのRomanは確実に面白くなくなっているので、そのあたりも調べてみたいです。修論が終わったあとにでも。
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かれんだー
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ぷろふぃーる
日本の大学院で現代ドイツ文学を勉強中。ただいま、ドイツにて「しゅっちょう」修行の旅の途中。今やすっかりメクレンブルクの空と大地と海に心を奪われています。
夢は、日本とドイツをつなぐ「ことばや」さんになること。
深刻になりすぎず、でも真剣に。
こつこつ、しっかり、マイペース。がんばりすぎない程度にがんばります。
2010年4月-9月までロストック(メクレンブルク・フォアポンメルン州)、10月-2011年3月までベルリンに滞在。再度ドイツに留学することが、今後の目標のひとつ。
ぽつぽつと、不定期的に過去の日記を埋めていきます。
無題
「面白い」っていうのにも二種類あって、一つは論文を書きやすい、つまり「興味深い」っていうのと、もう一つは「楽しい」に近いのがあるでしょ。多分前者なんだろうな、と読んでいてい思いました。
僕はものぐさですから前者と後者が両方ないととても研究ベースで読もうと思えない(だから「大詩人」マラルメも、「大劇作家」ベケットも読まずにユゴーやらミュッセやらゴーティエやらを読んでいるんですが)のだけれど、それがいいのか悪いのか。
野崎歓じゃないけど、何か作品を語る場合にはまず前提としてその対象を「愛する」必要があるんじゃないか、でないとその作品の魅力みたいなものを描けないでしょう、と思うのです。
ということで結論めいたことを書くと、「つまらないなら読むな。読むなら骨まで愛せ。」といったところでしょうか(笑
なるほど
今回の『夏の日の出来事』は「楽しくなかった」けれど、テクストとして「興味深い」とは思います。
とはいえ、楽しいと思えないテクストとの長期に渡るにらめっこ(および、うらみつらみ)はなるべく避けたいので、できるなら、心から「楽しい!」と思える作品に取り組みたいですね。(……なるべく)
アドバイスありがとうございます!
お互い、好きな作品を骨まで愛しましょう(笑)。